恋人が出来たと言っても、毎日、一緒にいる訳でもないらしかった。と言うよりも、月森はいつもと変わらず、陽介と過ごしていることの方が多い様だった。それが、陽介にとって良いことなのかどうか千枝には分からない。
「月森、昼、上で食べるよな?」
いつもは月森の方から陽介を誘うことが多いのに、珍しかった。友人だから一緒に食べるのも普通だし、そういう普通の行動を取りたいと陽介も望むのだろうかとか、勝手に思った。
「悪い。今日は約束があって」
「……そっか。あ、もしかして彼女が待ってんのか。ワリ、邪魔して」
陽介は素早く背を向けると、別のクラスメイトの方に向かっていく。千枝は買ってきたパンを机上に出しながら、その背を見ていた。
「千枝、どうしたの?」
「なにが?」
雪子はいつも小さめの弁当箱に、綺麗に並べられた和食が詰め込んである。勿論、彼女の手製ではない。板前さんが朝から用意してくれるらしい。旅館の朝食の序だと雪子は言うが、序にしては、随分と手が込んでいる。
(肉丼の出前とかいいかなぁ)
聞いたところによれば、月森が自分で作るという弁当には豚の生姜焼きだの肉じゃがだの、お肉のラインナップも色々とあるらしいので、ちょっぴり羨ましい。ちなみに愛家は出前をいつでもどこでも受け付けてくれるが、流石にそこまでの勇気はなかった。
「最近、花村君ばかり見てるみたいだから」
雪子は花弁の形をした煮付けの人参を口に運んだ。
「や、やだなぁ、そんなことないってば!」
机をばしばしと叩くと、雪子は、気の所為かな、と首を傾げた。千枝も買ってきた焼きそばパンのビニールを剥がすと、慌てて齧り付いた。
自覚はある。気にして陽介を目で追ってしまうのだ。陽介の方は、別に、月森ばかりを注視しているという訳ではない。
(だって、気になるんだもん)
パンを食みながら、ぼんやりと物思う。
「雪子は、辛いことあったら、なんでも言ってよね」
「へ? どうしたの、急に」
「最近、忙しそうだしさ」
「それは大丈夫。寧ろ、勉強になってると思ってるから」
「さすが若女将」
勉強熱心な友人に感心して溜息を吐くと、雪子はくすくす笑いながら弁当の箸を進めていた。
「私は、千枝のこと、頼りにしてるよ」
――千枝は私の王子様、だった。
雪子のシャドウが言ったことを、ふと思い出した。あの頃は、二人で依存をしているだけだったけれど、今ならきっと良き友人として、雪子は千枝を頼ってくれるし、千枝も同じ様に雪子を頼れる。
(同じ様にしたいだけなのに)
力になれない自分が歯痒い。だから余計に視線が虚しく追い掛ける。誰が悪い訳でもないのに。
見ていると、誰かと話をしていても、呼ばれると必ず、陽介が月森の方へ行くのが分かる。どんな風にその背を追っているのかは分からないが、じっと後ろの席から視線を傾けていた。その視線は、悲痛ではないけれど、何故だか胸が痛むものだった。