sweet sugar sunset -7

 助っ人を頼まれたバレーの試合が、日曜日にあると言われた。場所は八十神高校の体育館だと聞いているし、折角だから、勇姿を親友に見て貰おうと思って彼女を誘ったのだが、日曜日は団体客が来るということで、どうしても行けそうにないと言われてしまった。平謝りする姿に、忙しいことを知っていたのだから、さり気なく予定を聞いてから誘えば良かった、と千枝は後悔したのだが、後の祭り。
「へ、平気平気、えっと、……あ、ほら、花村が来てくれるんだって!」
 そこで、タイミング良く(向こうからすれば、決して『良く』ではなかったかも知れないが)通り掛かった陽介の腕を引っ張って、千枝は笑顔を作った。
「だから、雪子は手伝いファイト!」
 両手の拳を握って言うと、きょとんとした雪子は、直後にくすくすと笑い出す。
「ありがとう、千枝。花村君、千枝の応援、宜しくね」
 ぬばたまの夜の様な黒髪を揺らし、雪子は陽介に向かって、千枝がしたみたいに細い手で拳を作った。と、前扉のから呼ばれたので、雪子が席を立った。陽介は微妙な目で千枝を見る。
「なんだよ、応援って」
「いやぁ、日曜にバレーの練習試合の助っ人頼まれちゃってさぁ」
 頬を掻くと、陽介は胡乱な眼差しを向けた。
「雪子、忙しくって来られないらしくて」
「何時からだよ」
「10時から――って、あ、別にマジで来なくても平気」
 雪子にこれ以上、謝って貰わない為に言っただけであって、本当に試合の応援に来て貰うつもりはなかった。言うなれば、口裏さえ合わせて貰えば、それで良いのだ。
「日曜なら暇してっから、行ってもいいぜ」
 だから、陽介にそう言われて驚いた。急に言われたからさっきは驚いたけど、と陽介は笑う。
「え、いいの……?」
「応援する奴がいた方が、張り合い出んだろ」
「それは……まぁ」
「日曜の10時な。場所はここ?」
「あ、えっと、体育館」
 了解、と陽介は片目を瞑って言った。
「何、話してるんだ?」
 音もなく月森が近付いていたので、千枝はぎょっとした。気配が薄いということもないのだろうが、月森は気付くと傍にいたりする。陽介は友人の姿を見ると、ぱっと顔を明るくさせた。
「日曜に里中の勇姿が見られるらしいぜ、相棒」
「里中の勇姿? テレビでも散々見た気がするけど」
 くすりと月森が笑う。
「里中は強いからな」
「や、リーダーに言われても」
 ペルソナを自在に切り替えられる月森は、シャドウが強くなっていく中、その姿を数十と言わず百を超える位に変えてきた。天使も悪魔もいて、異なる能力を生かして常に先手を切っていた。そんな彼の姿を見ていれば、千枝も陽介も、敵わないなと思う。
「特に足技が輝いてた」
「なんだよ、月森。俺の勇姿は?」
「陽介は、うーん、どうだろうな」
「ひっでぇ!」
「嘘、嘘。陽介は頼りになってるって。俺の右腕だろ」
 そう言われると、陽介の瞳が輝いた。
(うれしそうにしちゃって)
「ま、月森が一番つえぇのは知ってるからさ」
 陽介は基本的に裏表が余りないタイプではあるが、こうも好意的な発言は他にないだろう。
(好き……なんだよね)
 そう思って見ると余計に。そして、男同士だと言われても、月森ではさもありなん、と思ってしまうのだ。男から見たって、彼は格好良いだろう。惹かれてしまう。一番傍にいて、相棒等と呼んでいる陽介ならばと納得出来てしまうのだ。
「……ありがと、陽介」
 それに、対する月森の方だって、他と陽介の扱いは違う様に思える。微笑み方が優しいし、流石に相棒と言うだけはある、特別な友人関係なのだと感じられた。雪子と千枝は、親友で互いに特別な存在だと認識しているが、丸で、それの様に。
(まだ、一年も経ってないのに)
 幼馴染として、幼い頃から互いを見てきた雪子と千枝とも違う。それなのに、自分達よりもずっと、二人でいるのが自然に見えた。だから、揶揄っている訳でも、楽しんでいる訳でもなく、千枝は、陽介の想いを応援したいと思っているのだ。
「ね、月森くんも日曜、見に来ない? 花村独りじゃ可哀想だし」
「そーそーカワイソーってオイ、待て!」
 陽介はちらりとこちらを見た。なんかまた変な気を回そうとしてるんじゃないだろうな。言外にそう、眼差しが語る。
「日曜か――あ、ゴメン、用事が入ってる」
「あはは、用事じゃ、仕方ねぇよな。なに、女の子と遊ぶの?」
「そんなところ」
「そっか、羨ましいことで」
「陽介も里中といるんだろ?」
「それとは、ぜんっぜんちげぇだろーが」
 そう言うと、陽介は月森の背中をぽかりと殴った。
「……彼女?」
 思わず口に出してから、千枝は、はっとして右手で口を押さえた。
「違うよ」
 月森はさらっと言うと、にこりと微笑んだ。

 

back