sweet sugar sunset -5

『里中、どういうことだよ……!』
「だから、二人で勉強したらいいじゃんって思ってさ」
『余計な気を回すな!』
 焦れったいんだもん、と言うと、電話の向こうで高音が響いたので、思わず携帯を耳から離した。
 昨夜の内に、月森にメールで『英語の小テストがあるって聞いたから、ちょっと集まって勉強しない?』とメールで打診をしたのである。月森は特に異論を言うこともなく、あっさりと了承するリプライが返ってきた。その後、千枝は、陽介にもメールしておく、と返信をし、陽介にも『明日、やっぱり一緒に勉強しない?』とメールを打った。千枝とであれば断られるかとも思ったが、陽介の方もあっさり、別に構わないとの返事が来た。場所はいつものフードコートを指定し、翌日になって、千枝だけ自宅で教科書を開いているという状況である。
『つか、驚いただろーが! せめて先に言えよ!』
 それは確かにそうであろう。陽介は千枝がいると思ってフードコートに赴いた訳で、そこに月森がいれば驚くに相違ない。
「言ったら、行かないでしょ」
 図星だったのか、陽介は黙ってしまった。
「月森くんさ、来年の3月にはいなくなるじゃん? 一緒にいたいとか思わないの?」
 トントンと机を青のシャーペンで叩く。
『ない』
 陽介はすっぱりと言い切った。
『二度とこんなことすんなよな』
 諭す様にそう言うと、じゃあな、と陽介は通話を切った。余りにも真っ直ぐな言葉に、何故だかぞくりとする。己を断ずる様に聞こえたのだ。怒らせてしまっただろうか、と千枝は天井を仰ぐ。何せ、他人様にしても自分にしても、恋愛に関わったこと等、一度もなかったのだ。味方になると言ったのは嘘ではない。力になりたいと思った。二人が上手く行くように助力するとまではいかなくても、せめて。
(喜んで欲しかったんだけど)
 傲慢だっただろうかと思って目を閉じると、ピリリッとメールの着信音が響いた。ゆっくりと瞼を開けて、携帯を開く。愛犬と千枝との待ち受け画像に、メールの着信を記す画像にカーソルを合わせた。
『怒ってるわけじゃねぇぞ』
 出てきたのは、そんなたった一文だけ。
「……なぁにフォローしてんのよ」
 笑けてきて、千枝も返信画面を開く。「そんなに私と勉強したかったんだ?」と打ち込んで、少し考えて全部消去した。
「楽しんでね」
 分かってる、とだけ打つと、気が変わらない内に送信。そしてそれから新規メール作成して、親友のアドレスをアドレス帳から呼び出す。「今からうちで、一緒に勉強しない?」と打って、行を空けて、「家の手伝いが平気だったら」と添える。もう一度、教科書とノートに目を向けた。教科書では、ハロウィンのルーツやジャコランタンの話が英文で綴られている。知らない単語には幾つか訳が書かれており、熟語には黄色の蛍光ペンでマーキングがしてあった。数週間前のことだが、全く自分では記憶に残っていない。範囲とは異なるので、その頁はスルーして捲っていく。パラパラと見ている内に、携帯が鳴った。雪子からの返信だろうと思って、特に意識せずに指先を動かす。
『わかんねぇとこあったら、月森に聞いといてやるけど』
 不意打ちに胸がとん、と跳ねた。返信文を悩んでいる内に、もう一つ、着信音。
『今日は団体さんがいないから大丈夫。今から行くね』
 今度は予測通り、親友からだった。千枝はきゅ、と唇を小さく噛んだ。雪子の方には、待ってるね、と打って、後ろには笑顔の絵文字をくっつけておく。
 ありがとう、何かあったらメールするから。
 絵文字も付けず、素っ気ないままで送信した。

 

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