sweet sugar sunset -11

「花村、今日、バイトないんでしょ? 愛家でも寄ってかない?」
 ホームルームが終わって直ぐに、つんつんと肩を叩いた。陽介は少し思案顔になったが、俺の奢りじゃなきゃいいぜ、と頷く。
「あ、その前に、ちょっと2-1に用事あっから、済ましてくるわな」
 陽介は鞄からCDらしき物を取り出すと、軽く振った。なぁにそれ、と聞くと、借りもんだから返さねぇと、と返ってくる。
「じゃあね、千枝。明日は平気だと思うから」
「ん、気を付けてね、雪子」
 親友は席を立つと、小さく右手を振った。クリスマスや年末で、旅館は今、てんやわんやなのだそうだ。落ち着いたら、この前、美味しいケーキの店があったからそこで疲れを癒そう、と誘ってある。陽介と食べたガトーショコラは美味しかった。チョコレートは濃厚で少しビター、生クリームはこれでもかとばかりに甘く出来ていて、非常にバランスが良い。二人で美味しい美味しいと言い合って食べた。流石は雑誌に載る店だと二人で絶賛し、都会ならもっと有名な雑誌に載る店だって幾つも見ただとか陽介は得意げに話す。ジュネスのケーキもこれだけ美味しかったら毎日食べるのに、とか、下らない話題で盛り上がった。
「えっ、月森別れたってマジ!?」
「すっげ美人だったじゃん」
「だから、付き合うったって、恋人って感じでもなかったんだって」
「もったいねぇぇ……」
 その噂は、朝、聞いていた。月森は付き合っていたというマネージャーと昨日、別れたらしい。原因は本人が語ってくれないので不明。
(花村にも言った方がいいのかな)
 言わなくても、それなりに情報の早い陽介のことだ、寧ろもう既に知っているのかも知れない。
(月森くんが言ったかも知れないし)
 真相は分からない。味方になると言ったけれど、陽介は唯の一度も、千枝に相談したりはしないのだ。話し難いことであろうとは思うけれども。だから、どうなっているのか分からない。
 談笑を終えた月森は振り返った。陽介の机に行儀悪く座っていた千枝と目が遭う。
「別れちゃったんだ」
「里中は――、陽介と?」
「そんなとこ。またね、リーダー」
 ひらひらと手を振ると、月森は静かに席を立った。
(もう、応援したりしないから)
 陽介が月森を好きだと言うのなら、二人が上手く行けば良いと思った。尽力するのも吝かではないだろうと思っていたのだ。彼らは余りにも仲が良かったから。恋人になれるし、そうなれば幸せだと思った。けれども、世界はそんなに簡単に作られていない。
(だったらもう、月森くんとなんて、やめようよ)
 もしかしたら彼も、と囁く声を無視する。これ以上は知らない。考えない。
「っと、待たせたな、里中」
 足をぶらぶらとさせていたら、陽介が戻ってきたので、机から下りた。
「んーん、別に。早く愛家行こ」
「ったく、ホントお前って肉ばっかだよな」
「いいでしょー、肉は私を裏切らないんだから」
「この前みたいに、クレープとかケーキのが、女の子らしくていいっつの」
 陽介はきっと、そういうのが好きなのだろうなと思う。
「言ったわね……! だったらクレープでもいいけど」
「えっ! まじで? 病気じゃねぇよな?」
「そんなに驚かないでよ。ちょっと疲れたなって思っただけ」
「あぁ、疲れた時は」
 楽しげに陽介は微笑んだ。
「そ、甘い物かなって」
(クレープは前食べたし、今日はパフェの方がいいかなぁ。ジュネスのチョコパフェって、チープなんだよねぇ)
「んじゃ行くか」
 鞄を手にして、陽介が前を歩く。夕焼けが彼を染め上げる。その紅い背中を見詰めながら、ぼんやりと思った。
(私が、傍にいるから)

主花と分類してみたけれど、この話のハイライトは花千枝です。
月森を断れない呪縛を千枝ちゃんが解き放ってあげるという…千枝ちゃんは王子様。
どうでもいいけど作者はクレープが大好きです。ほっとくと話中に甘い物ばっかり出てくる。
憂鬱な話ですが、最後まで読んでくださってありがとうございました!

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