「で、どうだったの?」
夏祭りに浴衣の美少女が眩しい。クマはりせの腕に抱き着いて大はしゃぎしている。ちょっと羨ましいな、と思った。
「どうって」
クマに付き合わされている完二(隣で何やら荷物持ちをさせられている)を見ながら、あっちは暢気で良いなと思う。何故だかこちらの浴衣美人達は、コンドルの如く鋭い目をしている。まるでハンターの様だ。
「だから、月森くんとよ! まさか、あのままなんにもありませんでしたーってことはないでしょ?」
「……里中、お前さ」
黙っていればとは言われるが、千枝も千枝で黙っていたら、手と足が出なかったら、と思う。しかも、さり気なくすごいことを言っているし。
「里中、陽介から話聞いたよ」
溜息を吐いていた陽介の背後にいた月森が、にこりと笑顔を浮かべて、千枝の方に視線を向けた。
「……まさか、天城じゃなく、里中にハメられるとは思わなかった。迂闊。それとも天城の入れ知恵?」
「ハメられ? え?」
親友が何を話しているのか良く分からず、陽介は首を傾げる。最近、気付かない所で話が進んでいる様な気がするのだが、気の所為だろうか。月森が千枝にハメられた、とは何とも穏やかではない話だ。
「天城だったら警戒したんだけど、里中って何気に陽介のこと気にしてるから、本当のことだと思ったじゃないか」
「それが狙いだもんね、千枝」
「うえっ? アタシ、花村なんて気にしてないよ!?」
「おーい、話に入れてくんねぇ?」
どうやら千枝、雪子、月森の三人には通用しているらしい。1年コンビとクマならまだしも、2年カルテットの中で仲間外れになってしまっては、少し淋しい。前ではクマが林檎飴を完二に強請っている。まるで彼女みたいに腕を掴んで揺すっていた。奇っ怪な光景だ。
「だから、花村君は鈍いねって話」
「や、それはだからずっとそうだって、雪子。あんだけあからさまなのに気付いてないんだから」
「だから、なにが? 俺、ついてけてないんですけど?」
千枝からも雪子からも、敏い且つ鈍いと言われている様な気がするが、その且つは両立しない筈である。一般的に言えば。
「月森くんが、花村のこと好きって話!」
まるで、理解力のない生徒に向ける様な、少し諦めの入った視線で千枝が言った。動く度にぴこぴこと浴衣の袖が揺れている。
「あぁ、そういう……って、は、はああああああああああっ?」
「うんうん、花村君、鈍過ぎるよ。月森君、あんなにあからさまだったのに」
笑う雪子が口元を隠すように右手を上げる。また、浴衣の袖がゆらりと揺れた。酷く場違いな思考だったが、それらは風流だ、と思ったのだ。
「そうかな?」
他人事の様に、自分の恋路を暴かれた月森は平然と笑っている。神経回路が絶対に違う、と陽介は思わず眉間に皺を作った。月森はそれに素早く気付くと、皺を寄せていると癖になるから、と眉間に指を伸ばす。ぐに、と少し動かして、陽介が抗議するより前にパッと手を放した。考えてみれば、月森はスキンシップが過多な部分があるとは思っていた。手首を掴むとか、髪に触れるとか、一つ一つは何気ないことばかりだけれども。
「無自覚なんだね……」
もし意味があるとしたら、どうなのだろう。陽介は思わず月森の瞳に見入った。真っ直ぐな灰色の瞳は、満足そうに微笑んでいるばかりだ。
「もうホント、見てられなかったもん。どうしたらいいかなって、雪子と考えたんだよー」
「ちょっと待て。なんか頭痛くなってきた……えーと、里中、お前、変な奴がってアレ、嘘だったのかよ!」
「嘘じゃありませんー。変だったんだもん」
ぷうっと千枝は頬を膨らませた。
「なにが」
「月森くん」
「…………そういうオチ?」
「ところでさ、陽介も浴衣着てくれば良かったのに。俺、見たかったなぁ」
「そういうのやめて! ややこしくなるから!」
後、話をちゃんと聞いて、会話してくれ。頼むから。
「今度、ウチに泊まったらどうかな。浴衣、あるよ」
「ナイス天城屋旅館」
「そっちはそっちで会話すんな!」
「なになにー、花村ってばヤキモチ?」
「もうツッコミばっか止めさせて!」
*
「俺はさ、多分ずっと、陽介のこと、好きだよ」
「んなの、保証ねぇじゃん。つか、そんなん言われても、困る」
「顧みて欲しいけど、陽介には望まない。でも、いつかって、期待だけさせてよ。夢見たい年頃なんだ」
「……ロマンチストめ」
「陽介がリアリストだから、調度良いだろ?」
にっこり、と月森は笑顔を浮かべた。
「好きだよ」
うちの主人公の夏休みがあんまりにも釣り猫釣り猫読書読書だったんで、
こいつは不憫だ陽介助けてって思って書きました。
りせちが陽介だけ苗字呼びするから可哀想じゃんって思ったんだけど、
てことは陽介って呼ぶの自分だけじゃね? って勘違い系男子の主人公の独占欲に萌えます。
くっつくはずだったのにあれーって感じですが、お粗末さまでした。
タイトルはミクのJust call my nameをもじりました。