Just call her name -17

 突き抜ける天上の紺色。以前に古典で、そんな句を聞いた気がした。抜ける様な青い空。正しく快晴。深呼吸すると、冷たい外気が肺を通り抜けた。寒いけれど、それだけではない。道の先が見えている。
 マガツイザナギを倒したと思えば、全くラスボス宜しく、足立はアメノサギリとか言う、睫毛がふさふさの、得体の知れない目玉に取り込まれた。生田目がクニノサギリと同化した様に、異形の姿に変わったことに、最早不思議はなかったが。
 アメノサギリは、霧で全てを閉ざそうとしていたらしい。彼(彼女かも知れない)の発言からするとそうであるが、結局、葬ってしまったので、良く分からなかった。テレビから八十稲羽市に漏れ出た霧は、やはりあの霧と同じ物だったらしく、道理で体調不良が囁かれる訳だとだけ思った。放っておいたら、八十稲羽市は、霧に消えていたのかも知れない。或いは、国が、世界が。そんなぞっとしないことを思いながら、本当に、コンピュータゲームの様に、自分達が図らずも『救った』のだと思う。ヒーローと呼ばれたい訳ではないが、事実としてそうだった。
「終わったな……」
 万感の想いを込めて、陽介はここまで自分達を引っ張ってきたリーダーに告げた。霧を晴らしたヒーローはきっと、月森孝介なのだろう。
「有難う、陽介。ここまで……感謝してるよ。陽介のお陰でやってこれた」
 こちらを向いた月森は、晴れやかに笑った。
「俺だけじゃねぇだろ。皆! 皆に感謝」
 ほれ、と仲間達を見回すと、皆、人の悪い笑みを浮かべていた。
「照れなくてもいいじゃん、花村。リーダーの心はいつだって、アンタの物だよ」
「そうだよ、花村君。やっぱり、花村君がいたから、月森君も頑張れたんだよ」
「あ、やっぱ、その……花村先輩も、そうなんスか……えっと、その、俺、そういうの偏見ねぇっスから! 大丈夫っス!」
「ヨースケぇ、この、幸せモン!」
「花村先輩、いいなぁ。りせも先輩に褒めて貰いたいっ!」
「駄目ですよ、久慈川さん。リーダーの気持ちは花村先輩に向いているんですから。ですよね、リーダー?」
「お前ら、結託すんな、この場面で……」
 世界が救われてめでたしめでたし、という、ゲームなら感動のエンディングの筈なのに、これでは全く締まらない。けれど、これが『らしい』のだとも思う。カッコつけたことをしても、結局、馬鹿みたいなことで笑い合っている。
(もう、終わりだよな)
 こうして集まって、テレビに入るのも。霧が人の心を脅かすのも。
(これで、終わり――先輩、見て、ますよね)
 花ちゃん、と声が聞こえた。きっと、もう二度と聞こえることはないのだろう。
 ずっとウザいと思っていた、とシャドウの彼女は言った。そもそも死んだ彼女のシャドウが本当に、あの場所に残っていたのかは分からない。あれだけが彼女の本心だとも言えない――陽介の見た物が彼女の残留する思念であったとしても、シャドウならば、早紀はきっと、言葉を否定したのだろう。内に潜む、陽介への暗い感情に、首を横に振ってくれた。だから、同化出来なかったシャドウが彼女を襲った。本物はきっと、陽介を疎んでいるだけではない。そう、信じて良いのだと思った。
 雲間から無数の光が、そっと地面に刺さるように差し込む。
『天使の梯子って言うんだって。珍しいんだ。花ちゃん、見られてラッキーだったね』
 溢れる光の下に、セーラー服の少女が佇んでいる。
(さよなら、先輩)
 笑顔は溶け込んで、自らの内に入る。ペルソナが生じた時の様に。これが、飲み込んだということなのだろう。彼女はもう死なない。陽介はこうして、彼女を生涯、忘れない様に刻み込んだのだ。彼女の存在は消えない。
「で、花村先輩は、ドレスと白無垢と、どっちが好みなの?」
 ぼんやりと掌を見詰める陽介に、背後から飛びついてきたりせが、突然、珍妙な発言をした。
「……オイ、ちょっと待て。人が感傷に浸ってる間にどうしてこうなった」
「千枝のメイクは駄目。私が今度はやる。大丈夫、元が良いから、必ず美人になる」
 雪子が拳を握って、こちらに、なにかを期待するような視線を送っている。
「でしたら僕が、クマくんの時に使ったウィッグをまた用意しますね。あ、先輩でしたら、茶髪のロングの方が合うでしょうか」
 直斗は楽しそうにしている。
「じゃあ私はまたガムテ係かーアレ、楽しいよねぇ。こう、ベリベリッてやるときの、花村の痛そうな表情!」
 千枝の目が輝いている。シャドウになった時の姿と言い、千枝はもしかしてサディスティックな一面でもあるのではないかと疑われる程に、目が爛々としている。
「花村先輩……ご愁傷さまっス」
 完二が拝んだ。
「うぅ……ヨースケ、幸せになりんしゃい!」
 クマが本気か否か、目を潤ませている。
「だから! どうしてこうなってんだよ!」
 陽介は頭を抱えた。ドレスも白無垢も、何となくどういう経緯の下に生まれた言葉か察したが、両方共、御免である。
「よし、じゃあ、最後ってことで、アレやろ! 円陣組むヤツ!」
「どういうグダグダなんだよ、これはよ……!」
「せーのって言ったら、オーだよな」
「リーダー、そこは一々確認したらシラけるって。ま、いっか」
「センセイ、号令、頼んだクマ!」
「んじゃ、せーの」

12月3日見たら陽介がまだ小西先輩のこと引き摺っているように見えた上に、
その後は、割とあっさりいつも通りになってて、「え、なんで?」となったので、
陽介はこんなこと考えてたんじゃないかなって考えて書きました!
ここまでは結局主→花→小西先輩なんだけど、キスされてもなんとも言わない陽介は
結局センセイ好きな気がって言うか、書いてる内に
あれまぁやっぱり主花ちゃん両思いじゃねって思いました。お粗末さま!

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