ミチルが爪の手入れをしながら、今日の夕飯なににしようかなーと呟いた。
「白米だろ白米」
机に顔をくっつけたまま安形が言うと、女子二人の空気がざわりとする。
「えッ……」
「会長……?」
二人で夕ご飯食べるような仲だったの? と、複雑な眼差しを会長に向ける。
「なに言ってんの。安形が食べる訳じゃないんだからね」
ミチルがすかさずツッコミを入れると、浅雛も美森も、あぁそういう、という安堵したような顔を見せた。ミチルは、だいたい白米ってアバウト過ぎるだろ、と形の良い眉を少しだけ顰める。安形が浅雛と美森を交互に見ると、美森は手を口に当てておっとりと微笑み、浅雛は嘆息していた。
「でも、榛葉さんの料理は美味しいですものね」
美森は気を取り直したように、笑みを浮かべたまま、話題をすっとシフトさせた。
「料理の腕は認める」
「家でも、いつもお夕食を作っているんですの?」
「いや、たまにだけど。ほら、オレ、料理が好きだから」
ミチルは美森にウインクすると、ご所望とあらばミモリンにも作ってあげるよ、と笑った。浅雛が悪態をつくように「DOS」と睨む。
「ミチル、オレにも夕飯作れ」
「なんで安形に」
「あらまあ」
うふふ、と美森が微笑んだ。
「それにしても榛葉さん、なんだかお母さんみたいですわね」
美森の発言に、浅雛がギッとミチルを睨むように見た。有り得ない、と口から出すことすらなく、首を横に振る。ようやく顔を上げた安形は、かっかっかと独特の声で笑った。
「んじゃ、オレがお父さんで、椿が長男だな。なぁミチル、サスケはオレたちの息子にしては出来過ぎのいい子に育った……」
「うんうん。本当に真面目な良い子に育って……」
安形に話を振られたミチルは、慣れたようにテンポ良く返した。
「なんなんですかもう! いい加減にしてください! 仕事してください! だいたいそのセリフ、うちの父のセリフじゃないですか! なんで知ってるんですか!?」
「あら、その発言は椿くんも知らないはずですわ」
「MSM(ミモリンそれはメタ発言だ)」
机をバンと叩いて立ち上がった椿の手元から、書類が一枚ひらりと落ちる。彼一人は真面目に仕事をしているが、他のメンツはと言うと、雑談に興じているばかりだ。
「仕事してください! ボクたちは生徒会の一員なんですよ! 我々は、より良い学園作りのために――」
「椿くんは口を開くとそればかりだな」
利き手の拳を握り締めながら力強く言う椿を、浅雛が一蹴する。
「最近じゃアニメのサブタイトルにもなったくらいだしね」
のんびりとミチルが笑うと、椿はそちらを睨んだ。
「だいたい、榛葉さんがいつも会長を甘やかしてるからじゃないですか!?」
「えっオレ? 心外だなぁ」
そのような自覚は一切ないミチルは、苦笑しながら右手を振った。
「あら、椿くんの方がお父さんみたいですわ」
「会長がDM(ダメ息子)……。合ってるな」
思わぬところに話を振られ、椿は混乱したように顔をキョロキョロさせた。女子陣二人と共に、ミチルは「確かに合ってるねー」などと言って、にこにこと笑っている。
「えっ? はっ?」
「おい椿! てめぇ、サーヤというものがありながら……」
しかし、黙っていなかったのは安形だった。先ほどの椿よろしく机を叩いて立ち上がったかと思えば、怒りに肩を震わせる。
「安形紗綾? えぇぇ?」
自分と彼の妹との仲を誤解しているなど露知らない椿が首を傾げていると、安形は彼を睨み付けた。
「オレのミチルに手を出すな!」
「まあ!」
「本音が漏れてるな」
「うーん、安形よりは椿ちゃんの方がしっかりしてるし、お父さんには向いてるかなー」
浅雛の指摘を聞いてか聞き流してか、ミチルは首を少し傾げると、一人で納得して椿の方に微笑んだ。
「なっ、なな、なに言ってるんですか!? ちょ、榛葉さん、会長がすごい勢いで睨んでるんで止めてください!」
「三角関係だな」
「大変ですわぁ」
「丹生、キミ、ちっとも大変そうな顔をしていないが!? あとなにが三角関係だ、浅雛!」
「DA」
「なんの略だそれは!」
「大体合ってる」
「違うと言っているだろうがー!」
椿が叫んだので、さすがに揶揄い過ぎたと思ったミチルが、冗談だって冗談、と苦笑交じりに言った。
「椿のがってのも冗談か、ミチル」
「安形めんどくさっ」
「DOS」
「うふふ、生徒会のお父さんは会長に決まっていますわ。榛葉さんも椿くんも、ちゃんと分かっていますわ」
冷ややかなミチルや浅雛に代わり、美森は優しげな微笑を浮かべて、安形をフォローした。
「えっボクもなのか?」
状況に付いていけていない椿が自分を指差してきょとんとしていると、左手からの非常に威圧感のある視線を受けたため、ああそうだな丹生の言う通りだ、と思わず棒読みでこくこく頷いてしまった。
「というか、仕事ォー!」
生徒会の子たちがだべってるのがひたすらに可愛い